ビジネスシーンにおける英語の必要性が高まるにつれて、英語の早期教育もさらに盛り上がりを増しています。
そんな社会情勢の中、日本にいながら沢山の英語と触れ合う機会を増やす教育として人気急上昇中の英語教育が「イマ―ジョン教育」です。
しかし、イマ―ジョン教育に最近興味をもった皆さんはこのような事を考えた事はないでしょうか?
- イマ―ジョン教育は普通の英語教育と何が違うの?
- そもそも英語の早期教育って大丈夫?
- イマ―ジョン教育のやり方は斬新だけど、本当に効果があると思えない!
本記事では、イマ―ジョン教育について理解を深めていただけるよう、下記の流れで解決します。
本記事で紹介する知識は、イマ―ジョン教育についてだけでなく英語教育全般を考える際に役立つ知識です。
子どもの英語教育に悩んでいる方はぜひ最後まで読んで、本当に効果のある英語教育を見抜くための知識を身に着けましょう。
イマージョン教育とは?
イマ―ジョン教育を簡単に説明すると、「学習したい言語で、普通の教科(社会や算数)」を教える外国語教育です。日本では、早期英語教育として注目されています。
鳴門教育大学の伊東教授の研究では、イマ―ジョン教育を世界で最も成功した第二言語習得学習として扱っています。その事からもその成果は折り紙付きと言えるでしょう。
イマージョン教育が他の英語教育と違う点
イマ―ジョン教育の独自性は、日本語と英語の相互関係で英語教育を捉えている点です。
イマ―ジョン教育はフランス語ネイティブが30%いると言われるカナダで、英語話者とフランス語話者の共存を図るために生まれた第二言語教育メソッドです。そのためフランス語ネイティブが母語を活かしつつ、第二言語としての英語を効率よく上達させるための教育方法として発展しました。
そのため、日本語を教育の中で使わなくなってしまう留学やインターナショナルスクール、また英語を日本語とは別のものとして教える通常の英語の授業とは全く違った英語教育と言えるのです。
イマージョン教育は幼稚園から始められる!
英語の授業を通して教科学習をする事から、イマ―ジョン教育は小学校から始まると考えられがちです。
しかし、実はイマ―ジョン教育は幼稚園から始められます。幼稚園から小学校の頃までのイマ―ジョン教育は早期イマ―ジョン教育と呼ばれ、教科学習よりも日常英会話に注力している学校が多いという特徴があります。
早期イマ―ジョン教育は小学校低学年頃まで続けられ、それまでは50~100%までの日常会話を英語で実施します。
広島経済大学の田中教授の論文では、英語による教科学習は年齢が高いほど効果が高いので時期尚早ですが、日常会話は小さいうちの方が効果が高い事が示されています。子どもが小さいうちは英語を日常生活に取り入れやすい環境として、イマ―ジョン教育を導入しましょう。
イマージョン教育の科学的根拠
皆さんの中には、バイリンガル教育そのものに抵抗感がある方もいるのではないでしょうか?実際に、バイリンガル教育では間違ったやり方で外国語教育をすると、母国語も外国語も中途半端になってしまうとする研究結果も出ています。(詳しくは後述します。)
しかし、バイリンガル教育には正しい方法があります。そしてイマ―ジョン教育はそんな効果的な科学理論に基づいたバイリンガル教育の1つなのです。
同じく伊東教授の研究では、イマ―ジョン教育は主に下記の2つの第二言語習得理論に沿った方法論だと考えられています。
それぞれどんな理論なのか簡単に紹介します。
インプット仮説
インプット仮説とは、自分が完全に理解できる事より少し難しい事を外国語でインプットする事で、その外国語の能力が伸びていくという理論です。
日本のイマ―ジョン教育では、英語での教科学習をしていきます。ここでの教科学習は、普通の教育と同じレベルの4教科を英語で教えます。つまり日本語で受けても少し難しいという内容を英語でも受ける事になるのです。
このように、日本語でも学力の伸びが期待できる内容をあえて英語でも学ぶ事で、英語の能力が伸びていくと言える事ができるのです。
もちろんこの時には、学力も同時に伸びるように教科学習の補助をすることもイマ―ジョン教育での先生の役割の1つとなっています。
相互依存仮説
言語能力は「瞬発的な日常言語能力(BICS)」と「思考や学習に使う言語能力(CALP)」の2つに分けられると考えられています。そして相互依存仮説とは、CALPは1つの言語で鍛えれば他の言語のCALPの習得が早くなるという理論です。
相互依存という部分が少し分かりにくいので例として、日本語と英語で考えてみます。
イメージとしては、「日本語で難しい事柄を考えたり伝えたりする能力が高い人」は「この能力が低い人」よりも速く英語で難しい文章を読んだり伝えたりできるようなるというイメージです。
これは逆に、英語から日本語も同じように言えるので相互依存と呼ばれています。
イマ―ジョン教育は、この理論を基に日本語のCALPを鍛えながら英語のCALPを鍛える事で、日本語を失わずに英語の獲得を目指して教育をしています。
イマージョン教育のメリット
イマ―ジョン教育を受けるメリットは主に2つあります。
それぞれ見ていきましょう。
認知能力が高まり、学校の成績が良くなる
立教女学院短期大学の研究では1つの物事から複数の言語から考えられるようになると、認知能力が高まり学校の成績が良くなる事が示されています。
イマ―ジョン教育では、同じ概念を英語と日本語で習います。日本語と英語は単純に単語や文法が違うだけでなく、同じ物を指す単語でも語源やイメージが違います。
例えば、日本語の「氷、水、水蒸気」は英語では全て「Water」です。英語の3つまとめて考える感覚は、物語の文脈の中でWaterをイメージしたり理科の実験でWaterと言われながら「水や氷」に触れる事でしか完全に理解する事はできません。
そしてこのWaterを1つで表す感覚を理解できた時、水も水蒸気も氷も本質は同じである事が日本語よりも直感的に分かるようになるはずです。
このように日本語とは感覚が違う言語で同じ概念を学ぶ事で、多角的な視点が得られます。
すると、論理的思考を様々な方向から出来るようになり認知能力を高められます。その結果、学校の普通教科の成績が日本語授業だけを受けた子どもよりも高くなっていくのです。
自然な英会話が習得できる
クラスメイトに英語のネイティブがいる場合には、その子ども達との交流を通して自然な英会話を身に着けられます。
英会話表現以外にも、きれいな発音なども自然に磨かれていくのです。
日本でのイマ―ジョン教育では日本語が母語の子どもが9割なため英語ネイティブと接する機会はカナダと比べるとかなり少なくなっています。しかし普通の小中学校に通っていてもなかなか出会えない本物の英語と触れ合える事には変わりありません。
そのため綺麗な発音や違和感のない日常表現を身に着けられる環境で過ごせることは、イマ―ジョン教育のメリットと言えるでしょう。
イマージョン教育のデメリット
イマ―ジョン教育は英語と日本語を同時に育てられる優秀なバイリンガル教育ですが、デメリットも3つあります。
それぞれ見ていきましょう。
一般的な幼稚園よりも費用がかかる
イマ―ジョン教育を受けるには、公立の幼稚園や小学校に通うのに比べて学費がかなりかさみます。
例として、イマージョンコースを導入している「加藤学園幼稚園」を例に挙げてみましょう。
保育料 | 1,000円/月(幼児教育無償化によって25,700円/月は市町村が補填) |
施設費 | 2,700/月 |
教材費 | 500/月 |
イマージョンコース | 30,000円/月 |
合計 | 34,200円/月 |
一般的な幼稚園にかかる費用は表の上から3つだけですが、イマ―ジョンコースになるとプラスして月30,000円の授業料が加算されます(3年間で約108万円の違い)。
これはイマ―ジョン教育を実施しようとすると、ネイティブスピーカーの講師を採用したり、専門的な教材を準備したりするため、一般的な幼稚園よりも費用がかかる事が原因です。
また小学校になるとさらに、私立の小学校に通うことになるため授業料も私立の授業料を払う必要があります。普通の私立小学校の学費は、6年間通して公立の学費よりも800万円も高いと言われているので、イマ―ジョンの場合は1000万円以上はみておく必要があります。
幼稚園の間は少し高い習い事感覚で払えるかもしれませんが、小中学校になるとそうはいきません。
イマ―ジョン教育の幼稚園に通わせようと考えている皆さんは、イマ―ジョン教育の効果がきちんと出てくる中学校まで通わせる余力があるか考えてから決めましょう。
セミリンガルになるリスクがある
バイリンガル教育には、日本語と英語のどちらも中途半端になってしまう「セミリンガル」のリスクがあります。
ではどのような要因が日英を自在に操るバイリンガルとセミリンガルを分けるのでしょうか?
下の図をご覧ください。
図の引用:早期バイリンガル教育の潜在的リスク
*図のJapaneseは日本語の流暢さを表し、BICSは日常英会話能力、CALPは学術的な英会話能力を指し、点線はその言語の運用にストレスを感じないレベルの流暢さを表しています。
ご覧の通り、2年以上の間日本語を使う環境にいないと、日本語とCALPの両方で点線(不自由な言語運用に必要なレベル)を下回ってしまいます。つまり日本語と英語のどちらの言語でも思考力が普通の子どもに比べて低くなっているのです。
この状態はその後5~6年続き、その間は日本語と英語両方で学校の勉強を理解するのに人一倍の苦労を要します。特に今後の学問的基盤となる小学校教育でこの現象が起きてしまうと、学校の勉強についていけず中学・高校の学習にも悪影響を与え、最終的にセミリンガルになってしまうのです。
セミリンガルになるのを防ぐ方法は日本語が発達するまで待つ事です。
初期イマージョンではできるだけ日本語能力を落とさず日本語のCALP(学術的会話能力)を上げ、英語はBICS(日常英会話)程度に抑えておきましょう。
母語のレベルが年数と共に下がる現象は、母語の元々のレベルが低いほど速く進行していく事が分かっています。この事から、日本語の能力を出来るだけ上げてから本格的な英語環境に移せば、日本語と英語の両方が点線の期間を短くできると言えるのです。
さらに前述した相互依存説で解説した通り、日本語のCALPは英語のCALPの発達を助けます。この事から日本語のCALPが十分発達するまで待つ事はむしろ効率的ともいえるのです。
セミリンガルを避ける具体的な解決策は「小学校高学年から本格的なイマージョン教育が始まる学校」に通い、それ以前は家庭でも無理に英語で勉強をさせない事です。小学校の高学年の日本語力になれば2年で下回る事はありませんし、下回ったとしても小学校卒業までなんとか持ちこたえられます。
そのため、中途半端に英語での授業が多い学校よりも小学校高学年以降から英語授業の割合が増える学校を選ぶようにしましょう。
イマージョン教育の効果が現れない子どもが2割もいる
群馬大学の研究では、7年間イマ―ジョン教育を受けている中学1年生の内、約2割の生徒が 単純なリスニング力* を測定するテストで「4歳児未満レベル*」である事が判明しました。
あくまでも単純なリスニング力だけに焦点を絞ったテストなので、それらの子どもも授業に追いつけないというわけではありません。
4歳未満レベルの子どもでも、文脈やテキストの情報などから推測しリスニング力を補う為、この研究で初めてテストを受けた中学生の先生は彼・彼女らのリスニング力の低さに気が付かなかったといいます。
しかしこの研究からイマージョン教育には適正があり、2割の子どもは他のバイリンガル教育(または並行してリスニング教育)を受けた方が効率的である可能性が考えられるのです。
あくまでも単純なリスニング力だけであり、総合的な英語力自体は十分成長します。しかし、もし2割の子どもに入ってしまった場合、イマ―ジョン教育とは別でリスニングの練習が別で推奨される可能性がある事は覚えておいてください。
*この研究のテストでは単純なリスニング力を、4歳児未満、4歳児、5歳児、6歳児以上の4段階で測定されます。リスニング力は6歳児で成人レベルに育つと考えられているため、6歳以上の測定はされません。
イマージョン教育を受けられる幼稚園
日本でイマ―ジョン教育が受けられる幼稚園は限られています。
・フェリシア幼稚園(東京都) 英語イマージョンクラスがある認定こども園です。外国人の先生と日英バイリンガル教師がチームで英語に慣れ親しめる環境作りを実践しています。 |
・アオバジャパン・バイリンガルプリスクール(東京都) 都内に複数のキャンパスを展開しているバイリンガルプリスクールです。日本語を習得するようにして英語も自然に身につけられるような環境を作っています。 |
・加藤学園幼稚園(静岡県) イマージョンコースでは、英語と日本語の保育室を交互に行き来します。ネイティブティーチャーも在籍していて、保育時間の50%が英語の時間に充てられています。 |
・宮城明泉学園(宮城県) イマージョンクラスでは、1日の大半を英語の先生と過ごします。4歳から12歳まで8年間の一貫教育も可能で、総合的な英語教育によってバイリンガルの育成を目指しています。 |
・田上幼稚園(鹿児島県) イマージョンプログラムでは、文部科学省幼稚園指導要領に沿った独自のカリキュラムを作成。年齢や学年のレベルに合った教科内容で、日本語の能力を伸ばしながら英語の機能的な習得を目指しています。 |
皆さんの周りにもないか、ぜひ調べてみてください。
まとめ:費用面さえ許せばイマージョン教育はおすすめ!
イマ―ジョン教育はカナダで生まれたバイリンガル教育ですが、今では全世界に広がり、母国語と第二言語の両方を同時に育てられる教育として人気を博しています。
一般的な英語塾と違い、時間とお金も桁違いにかかりますが、その効果は科学的に証明され数々の調査で好成績を収めているため信用できる教育方法です。
最後にもう一度イマ―ジョン教育の特徴を確認しておきましょう。
イマージョン教育では基本的に日本語と英語どちらも伸ばす事ができますが、中途半端な時間英語に触れさせてしまうと日本語と英語どちらも中途半端になってしまうリスクもあります。
始めるなら徹底的に高校卒業までイマージョン教育を受けさせる覚悟で始める事をおすすめします。