従来の教育にない魅力があるとして注目されるドルトンプラン教育。さまざまなオルタナティブ教育(*)の人気が高まる中、ドルトンプラン教育にも関心を持つ方が増えています。
学校教育法で規定されていない教育法のことであり、代表的なものにシュタイナー教育やモンテッソーリ教育等があります。探求型、少人数制、無学年制といった方式をとることが多いのが特徴で、思考力や行動力が身に付きやすいと言われています。学費が比較的高かったり、オルタナティブ教育実施校では学校教育法上の卒業資格を得られない場合があるので考慮が必要です。
一方で、ドルトンプラン教育の検討を考えている皆さんには下記のような疑問を持っているのではないでしょうか?
- ドルトンプラン教育の特徴は?
- ドルトンプラン教育を受けるメリット・デメリットは?
- モンテッソーリ教育との関係は?
そこで本記事では、ドルトンプラン教育の根幹となる原理や柱となる実践法について解説していきます。
モンテッソーリ教育との関係についても触れ、二つの教育の共通点や相違点を示しながら改めてドルトンプラン教育の理念や方針を紹介します。
きっと、本記事を最後まで読んでいただければドルトンプラン教育への理解が深まるはずです。ぜひ、最後まで読んでいただき、ドルトンプラン教育の導入を検討する際の参考にしてください。
ドルトンプラン教育とは?
ドルトンプラン教育はヘレン・パーカーストという教師が完成させた「クラスの人数が多くても、子ども一人一人に個別化した教育を行なう」教育方法です。
「子どものやる気がない」「同時に色々な事を教えるのが難しい」という悩みを解決するため、モンテッソーリ教育の自主性の考え方やデューイの問題解決手法を取り入れつつ完成させました。
ドルトンプランの2つの原理
ドルトンプラン教育は「個別指導をしながら集団に同時に教育を施す」という無理難題を2つの原理を用いる事で達成しました。その2つの原理こそが「子ども達の自主性を育てる自由の原理」と「多様な価値観を受け入れ助け合いの精神を育てる協同の原理」です。
今ではただ単に教育を個別化するだけでなく、子ども達の興味関心や課題から個性や才能を開花させる教育として世界に広まっています。
自由の原理
ドルトンプランにおける自由の原理とは、子ども達の「自主性」「創造性」を養うことです。
子ども達の自由に「自主性」や「創造性」を育てることによって、例えば下記のような能力が育ちやすくなると考えています。
育つ能力の例
- 自分で考え行動するための思考力
- 物事への興味や関心を高める探究心
- 取り組み課題への集中力や持続力
ドルトンプランでは子どものペースや意欲、取り組み姿勢に合わせた学習が大切だと捉えています。
子ども達の自由を尊重し、子どもの数だけある考えや方法に対応できるようにしているのです。
いくら自由とは言っても、子ども達の「自主性」「創造性」を養うために十分な時間を設け、必要な環境を整えることは施設の義務だと考えられているのでご安心ください。
協同の原理
子ども達に「社会性」と「協調性」を身につけさせるためのハウツーが協同の原理です。ドルトンプランでは「学校」=「周囲の人との交流から学ぶコミュニティ」としています。
一般的な学校教育と違い、学年やクラスの垣根なく人と関わるのが特徴です。
自分以外の人との交流でしか触れられない「多様な考え」「意見の相違」を通じ、集団の中で生きることを学びます。
具体的には、子ども達に「他人を思いやる心」「柔軟な社会的態度」「好ましい集団性」が養われるよう、子ども達中心の学習環境を整えていきます。
今ドルトンプラン教育を受けさせたい理由
ドルトンプラン教育の自由の原理が育む「創造性」や「自主性」は、まさしく今後必要とされる能力だとみなされています。そのためドルトンプラン教育はAI時代である21世紀を生きていく子ども達に必要な教育だと考えられています。
AI(人工知能)やロボットは今まで人がやっていた仕事の約50%を代替すると言われていますが、その中でテクノロジーにはできない仕事に必要な能力が創造性や自主性なのです。
今後の社会で必要とされる人材を育てる教育として今、ドルトンプラン教育に白羽の矢が立っています。
ドルトンプランの3つの柱
2つの原理「自由の原理」「協同の原理」を具体的な教育法に落とし込むため、「3つの柱」となるメソッドがあります。ここでは、それぞれの柱について詳しく解説していきましょう。
ハウス
ハウスとは「一般的な日本の学校でいうところのホームルームのこと」です。「家庭的教室」を意味するハウスでは複数の学年でハウスを構成し、子ども達の積極的な交流や行事の企画をする目的でコミュニティとして機能させています。
複数の学年で集まってハウスを実践することにより、考えや価値観に幅が生まれますし、互いに受け入れ合ったり体験を共有したりすることで自主性や社会性を育むのです。
また、「ハウスアドバイザー」とも呼ばれる担任の先生は、子ども同士だけでなく、子ども達と保護者や別の先生との関係性を高めるようなサポートに徹します。あくまでも、子ども達の多くの取り組みを活発化させるものとしてハウスが形成されているためです。
アサインメント
アサインメントとは、子ども達が先生と約束する学習到達目標やスケジュールを指します。子ども達はどのような手順で何を目的に学ぶか知ることで、学びを深め学習への意欲を高められるのです。
先生が与えるのはあくまでも指針です。
そこから先は子ども達自身が「やるべきこと」を決め、ゴールを設定して計画を立てたり、期限までの完了をコミットするのがドルトンプランにおけるアサインメントです。
普通の学校であれば先生が宿題やテストによって管理するところを、ドルトンプラン教育では子ども達が自らのタスクやワークを自分で決め取り組む事になります。
アサインメントを実践することで、子ども達には計画性だけでなく、「時間を逆算して活動する感覚」「時間を管理する能力」などが養われます。
ラボラトリー
「研究室」「実験室」の意味をもつラボラトリーは、子ども達にとって専門教科を学ぶ場です。子ども達は個々の関心や興味に応じた課題について専門的に学習し、専門性や実践力を自ら育みます。
与えられるままの知識や課題と違い、ラボラトリーでは自分の興味に従って勉強するため、学びはそのまま「生きた知識」「身になる課題」となるのです。
幼少期には従来の教育と同じように授業が中心ですが、年齢が上がるにつれて子ども達は自らの興味から学習課題を設定し研究していくようになります。その段階で専門的な知識を持つ先生の元で学びますが、先生はあくまでもアドバイスをする補助的な役割をすることになります。
子ども達が自ら自分の専門分野を探究していく姿はまさにラボラトリーと言えるでしょう。
ドルトンプラン教育のメリットは?
二つの原理と三つの柱で独自の教育法を構築するドルトンプラン教育。実際にドルトンプラン教育によってどのようなメリットがあるのか、具体的に見ていきましょう。
子どもの個性を伸ばせる
ドルトンプラン教育では、子どもの自主性を重視しながら個々の「興味」「関心」「ペース」「取り組み方」に応じた学習をサポートしていくので、子どもの個性が伸ばせます。
また、先生も子どもの要望や課題に合わせた授業を自由自在にアレンジできるため、柔軟な発想にもとづいたカリキュラムを組むことが可能。結果的に、パーソナルかつオリジナリティあふれる学習プランによって子どもの個性が育まれるのです。
自立した学びを促進できる
ドルトンプラン教育では子どもが「自分で」「自分の」「自分らしく」を根幹にしているため、自立した学びが促進できます。「何を」「どうやって」「なぜ」「いつまでに」というような目標・目的を明確にしながら自己プランニングすることで、子どもに生きた学びを習得させられるのです。
また、年齢や価値観の違う多様な集団の中での学びを整えるため、責任感や社会性など自立に必要な資質が備わります。
ドルトンプラン教育のデメリットは?
子ども達に自由で協同性豊かな学習環境を整えているドルトンプラン教育は、特徴的な教育法ゆえデメリットもあります。どのようなデメリットがあるのか詳しく見ていきましょう。
先生の質に影響を受けやすい
ドルトンプラン教育では、先生は「ハウスアドバイザー」として子どもの学習をアシストしたりプロデュースしますので、子どもには先生の質が大きく影響します。
特に高学年になっていくに連れて生徒の興味は専門的になっていきます。そのため先生の専門範囲によっては子どものサポートを十分にできない可能性があります。また子どもの学習につかず離れずのサポートをできるかどうかが子どもの学習成果に大きく影響してきます。良くも悪くもドルトンプラン教育が子どもにとって良い教育かどうかは先生の質に左右されてしまうのです。
日本で対応している学校が少ない
2020年8月時点で、日本にはドルトンプラン教育が受けられる学校は「ドルトン東京学園」「The Dalton School(東京・名古屋)」の2箇所のみです。幼児教育の場合は、河合塾が運営している「The Dalton School」でしか受けられません。
ドルトンプラン教育に対応している学校が少ないのは、単純に子どもに学ぶチャンスを与えられないというデメリットになります。
モンテッソーリ教育とドルトンプラン教育の関係は?
ドルトンプラン教育の生みの親であるヘレン・パーカーストは、モンテッソーリ教育を考案したマリア・モンテッソーリと師弟関係にありました。そのためドルトンプランとモンテッソーリ教育は根本的な考え方が似ているのです。
ここでは、モンテッソーリ教育に触れながら二つの教育法の共通点や相違点を見ていきましょう。
モンテッソーリ教育とは?
モンテッソーリ教育とは、女性教育者のマリア・モンテッソーリが誕生させた教育法です。モンテッソーリ教育では、子ども達は自分で自分を高めることができる「自己教育力」を備えていると考えます。そのためモンテッソーリ教育では、自由な環境の中で子ども達の自発的な活動によって成長を促しています。
マリア・モンテッソーリは、「子どもは、自分を育てる力をすでに備えている」と考えていたので、子どもの成長を子ども自身の能力に委ねたのです。医師でもあったマリア・モンテッソーリによって科学的な根拠にもとづいて確立された教育法は、日本の多くの保育園・幼稚園で実践されています。
ドルトンプラン教育はモンテッソーリ教育の共通点
モンテッソーリに師事したヘレン・パーカーストによって生み出されたドルトンプラン教育は、モンテッソーリ教育の理念を受け継いだ教育方法であると言えます。たとえば、「子どもの個性を重んじる」「子どもを自由に学ばせ自立を後押しする」という根幹は二つの教育の共通点です。
そのためどちらの教育方法も「詰め込み型の教育でない」という点で共通しています。
共通する理念や方針をベースに、ドルトンプラン教育では「二つの原理」「三つの柱」を掲げ、より教育法を具体化したのが改良版としてのポイントです。
ドルトンプラン教育とモンテッソーリ教育の違いは?
ドルトンプラン教育とモンテッソーリ教育の大きな違いは「先生との関わり方」です。モンテッソーリ教育での先生は環境の一部のような存在ですが、ドルトンプラン教育では先生が「ハウスアドバイザー」として子ども達と強く関わります。
どちらの教育法も子どもの教育で自由や自立をテーマにしているものの、ドルトンプラン教育は先生が与える影響が強くなります。どちらが「良い」「悪い」ということではなく、あくまでも学習環境の違いとしてどちらがお子さんに合っているか考えてみるといいかもしれません。
子ども達が自由に好奇心を発揮できるドルトンプラン教育
ここまで、本記事ではドルトンプラン教育について特徴やメリット・デメリットについて解説してきました。ドルトンプラン教育は子どもの自主性に任せて、子どもの好奇心を育む教育方法です。
最後にもう一度ドルトンプラン教育の三つの方法を確認しておきましょう。
このようにドルトンプラン教育では子どもの好奇心や探究心を信じ、先生たちは補助的な役割で学習を進めていきます。まさに子どもの無限の可能性を実現していく教育方法と言えるでしょう。
日本ではドルトンプラン教育が受けられる学校はまだまだ限られていますが、世界的に認められている教育方法であることには間違いありません。もし、ドルトンプラン教育の理念である「自由」と「協同」に共感できるのであれば、ぜひお子さんに受けさせてあげることも検討してみてください。