なぜ幼児のアート教育が注目されているのか?(専門家インタビュー)

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近年、科学技術の発達などによりAI(人工知能)の存在感が益々大きくなり、独自のアイデアや発想力を持った人材が求められるようになりました。我が子には「創造力の豊かな大人になって欲しい」と願う親も少なくないはず。そんな中、幼児の創造力を育むための教育法の1つとして、アート教育が注目されています。

今回は「アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室」の代表を務める今泉真樹先生に、幼児がアートに触れる教育効果やメリットなどをお伺いしてきました。

取材協力者プロフィール
アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室 代表
今泉 真樹 / Maki Imaizumi
■公式HP:http://www.piupiu.jp/child/
東京都出身。アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室 代表。桑沢デザイン研究所を卒業後、英ローズ・ブルフォード大学を主席で卒業。ジャン・ルイ・シェレルなど国内外の有名ブランドや宝塚歌劇団のジュエリーデザインなどを手がける。2012年、アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室を立ち上げ、子どもの創造力を伸ばすことに焦点をあてた指導を行う。保育 絵画指導スペシャリスト ライセンス保有。新宿区子ども未来基金助成活動【アートミック】アート講師も務める。

 

――今なぜアート教育が注目されているのでしょうか?

みなさんご存知のように、子どもたちが大きくなる頃には、今ある職業の多くがAIやコンピューターに取って代わられると予想されています。あらゆる作業が機械化されていく未来において、人間にしかできない仕事の価値は、より一層上がっていくでしょう。

オックスフォード大学のAIの研究者が2013年に発表した論文よると、コンピューター化の障壁となりうる仕事特性は、手先の器用さ、体の器用さ、環境の複雑性への対応、オリジナリティ、芸術性、社会性、交渉力、説得力、他者のケアの9つ。

この論文が発表された当時は、「AIに仕事を奪われる」と捉えられることが多かったのですが、今はもう次の段階に来ています。ネガティブに考えるのではなく、「AIにできることは人間がやる必要はない。AIを使いこなし、その技術をどう活かせるか」と考え、時代に合わせて常に変化し続けられることが、求められています。これらの力を身につけるために、アート教育が有益と考えられているからでしょう。

――子どもが幼児期にアートに触れる教育効果、メリットについて教えてください。

お子さんがアートに触れることで期待できる教育効果として、大きく5つ考えられます。

 

①ゼロから1を生み出す力を鍛える

「ゼロから1を生み出す力」とは、「何もないところから独創的なアイデアを生み出す力=発想力」です。新しい企画を立案する際、「何かアイデアを出してみて」と急に言われても、慣れていない場合、難しく感じるでしょう。

アート創作活動は、「何か好きなものを作ってみよう」「こんなものがあったら面白いかな」など、常にアイデアを出し、試行錯誤することにより、作品が出来上がります。この経験を積み重ねていけば、新しいものを生み出す力が鍛えられていきます。頭を柔らかくして、人と違うことをやってみる。正解のないアートだからこそ、失敗を恐れずにチャレンジできるのではないでしょうか。

 

②自己肯定感を高める

アートとは、自分との対話です。どう感じるのか、どうしたいのか、正解を探すわけでもなく、自分の中に芽生えた「やりたい」気持ちを追求していく。他者からの評価を気にせず、素の自分を出せる環境で、創作活動に没頭する。すると「ありのままの自分を信頼すること」ができるようになっていくのです。

このように、乳幼児期にアートを通して自己表現し、自由に取り組んだ結果をそのまま受け入れる経験をすれば、自己肯定感が高まっていきます。

 

③想像力や創造力をはぐくむ

アート教育の効果として、「想像力」や「創造力」が育まれるというのは、一般的によく言われることです。これはアートに触れることにより「好奇心」がくすぐられるからではないでしょうか。「この色とこの色を混ぜるとどんな色になるかな?」「なぜこんな形になったのかな」…と実験や探究を繰り返し、様々な発見をします。子どもにとってのアートとは遊びの一環なので、楽しみながら、自ら学ぶ習慣も身につき、自然と想像力や創造力が育まれていきます。

 

④認知能力・非認知能力ともに鍛える

最近よく耳にする非認知能力。豊かな創造力、溢れる意欲、最後までやり抜く力、自分をコントロールする力、人とうまくコミュニケーションをとりながら進める力、失敗から立ち上がる力といった、テストでは測定できない個人の特性による能力のことです。

IQは遺伝子的特質を持ち、教育効果もすぐに薄れてしまうのに対し、幼少期に身につけた非認知能力は、将来にわたり保持されることが明らかになっています。アートに親しみ、クリエイティブな視点を持つことで、非認知能力が磨かれていきます。

また、アート創作活動の過程では「何をモチーフにするか」「どんな色を使うか」など、常に取捨選択しながら、創り上げていきます。年齢があがり、デザインの課題に取り組む機会が増えると、計算力や読解力などの学力も必要となります。つまり非認知能力だけでなく、認知能力も鍛えられていくことになるのです。

 

⑤段取り力がつく

工作をする時、のりを乾かしている間に別のパーツを作る、など物事の先を読んで考え、行動できるようになると、スムーズに仕事がはかどります。お料理で言えば、お湯を沸かしている間に材料を切る、といった段取り力。物事を効率よくこなす力は、学力と繋がっており、仕事をする上でも重要です。成功や失敗の経験を積み重ねることにより、だんだん身についていく力だと思います。

 

 

――幼児のアート教育や習い事における注意点について教えてください。

創造力豊かな人間になって欲しいからといって、お子さんが好きでもないのにアートを習わせるのはあまりお勧めしません。お子さんの好きなこと、興味のあることを習うほうが、より多くのことを吸収できるからです。「好きを追求すること」が、結果的にAIに代替されない価値を生み出すと思います。

そもそも「創造力が豊か」ではないと、生き抜いていけないわけではありません。変化の時代とはいえ、攻めの仕事だけでなく、当然のことながら、守りの仕事も必要です。すべてのスキルを兼ね備えた人材などいませんし、これさえできれば安心、というものもありません。必要以上に心配したりせず、「好き」を伸ばして、自然体でいけば良いのではないでしょうか。

幸いにも、お子さんが大好きな習い事が見つかった場合は、ぜひ長く続けさせてあげて欲しいと思います。好きな習い事を長く続けることによって、見えてくる景色は変わりますし、「あきらめずにやり抜く力」を学ぶこともできます。

 

日本では、「頭の中を教科書にする」教育が、もう何十年も続いています。知識を丸暗記したとしても、検索すれば全部出てきますし、コンピューターやAIがほとんどの仕事をこなしてくれる。AIの得意分野を理解する必要はありますが、実際に人間がその仕事をする必要はなくなるでしょう。

AIに仕事を奪われるとネガティブに考えるのではなく、人間がより高次元でクリエイティブな仕事に集中できる、とポジティブに捉える。AIと共存し、使いこなしながら、自分で何かを生み出す力があれば、新しい時代とともに生きていけるのではないでしょうか。

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